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名古屋地方裁判所 平成6年(行ウ)10号 判決 1995年12月13日

名古屋市東区徳川一丁目八番四一号

原告

近藤實

名古屋市東区主税町三丁目一八番地

被告

名古屋東税務署長 井鍋義之

右指定代理人

中山孝雄

同右

櫻木修

同右

山本英樹

同右

大西信之

同右

木村晃英

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成三年七月九日付けで原告の昭和六三年二月三日相続開始に係る相続税についてした更正のうち課税価格五四四九万六〇〇〇円、相続税額五七七万六九〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り出す。

二  被告が平成三年七月九日付けで亡近藤すヾの昭和六三年二月三日相続開始に係る相続税についてした更正のうち課税価格五七一三万七〇〇〇円、相続税額〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  近藤秀夫(以下「秀夫」という。)は、昭和六三年二月三日死亡し、相続が開始した(以下、この相続を「本件相続」という。)。相続人は、秀夫の妻近藤すヾ(以下「すヾ」という。)と秀夫の子原告である。

2  本件相続に係る相続税の課税処分等の経緯は、別表一記載のとおりである。

3  本件相続に係る相続税算定の基礎となる次の各事実

(一) 債務及び葬儀費用の金額が別表二の「債務及び葬儀費用の金額」欄記載のとおりであること、純資産価額に加算される贈与財産価額が別表二の「純資産価額に加算される贈与財産価額」記載のとおりであること。

(二) 別表三の「土地」、「家庭用財産」、「現金 預貯金」並びに「その他の財産」中の「未収入金」及び「貸付金」欄記載の各財産が相続財産であり、その価額が「被告主張額」欄記載のとおりであり、取得者が「取得者」欄記載のとおりであること。

4  すヾは、平成七年二月一四日死亡した。相続人は、原告のみである。

二  争点についての当事者の主張

1  被告

(一) 別表三の「有価証券」欄記載の各株式(これらを総称して、「本件株式」という。)は、秀夫に帰属していたものであるから、本件相続に係る相続財産である。

(二) 本件株式が秀夫のものであったことは、次の各事実から明らかである。

<1> 本件株式の名義人は、別表四の「名義人」欄記載のとおりであり、秀夫のほか、秀夫の兄(近藤精一)、秀夫の従兄弟(近藤義一)、原告、原告の長男(近藤秀美)、原告の二男(近藤正紀)、原告の三男(近藤徳久)、株式会社近藤(以下「訴外会社」という。)の従業員(近藤光司)、西村登及び西村彰の各名義のものがあった。

本件株式が取得された時期において、近藤精一は既に死亡しており、原告の子供らはいずれも幼児であったから、自ら株式を取得することはあり得ない。また、西村登及び西村彰は、実在するか否か不明であり、これらの名義が使用されるに至った経緯について原告は十分に把握していない。さらに、トーエネック及び大倉商事のものを除いては、各名義人による株式の取得年月日、取得株式数が全く同一である。これらの事実及び次の<3>、<4>の各事実からすると、本件株式は、秀夫が取得し、秀夫以外の者の名義のものは、秀夫が名義のみを借用したものというべきである。

<2> 本件株式の各名義人の住所である名古屋市東区平田町二一(昭和五六年九月一三日、住居表示の変更により、名古屋市東区代官町一一-二となった。以下「本件住所」という。)は、秀夫の住所であった。

<3> 本件株式のうちトーエネック及び野村證券の原告名義の株式並びに大倉商事の西村登及び西村彰名義の株式以外の株式に係る株主票の届出印鑑には、秀夫名義の同一の印鑑(別表四の「株主票の印鑑の種類」欄にAと記載されているもの、以下「A印鑑」という。)が使用されていた。また、本件株式のうち野村證券以外の株式は、国際証券金山支店において秀夫名義で保護預りにされていたが、その保護預り口座の届出印鑑もA印鑑であった。

A印鑑は、印鑑登録を受けた秀夫の実印であって、しかも、秀夫が管理運用を行っていたと推認される秀夫名義の銀行口座の届出印鑑と同一であった。

<4> 本件株式のうちトーエネック及び野村證券の原告名義の株式に係る株主票の届出印鑑(別表四の「株主票の印鑑の種類」欄にBと記載されているもの、以下「B印鑑」という。)は、秀夫名義のものであった。

<5> 野村證券の単位未満株の購入に当たって、秀夫名義及び原告名義で買付注文が出され、買付注文の代金に残余金が生じた場合の振込先として、秀夫名義の銀行口座が指定された。また、発行された野村證券の単位未満株は、本件住所へ送付された。

<6> 本件株式に係る配当金の支払通知書は、すべて本件住所に送付され、配当金は、すべて秀夫が管理運用を行っていたと推認される秀夫名義の預金口座に入金された。

<7> 秀夫は、昭和元年ころ個人で事業を開始し、昭和三四年四月九日に訴外会社を設立して、同日から昭和五六年五月三一日まで、同社の代表取締役であった。本件株式は、その大部分が秀夫が同社の代表取締役であった間に取得されたものである。

本件株式の取得資金の出所は、必ずしも明確ではないが、秀夫が個人で事業をしていた間に蓄えた資金や秀夫が訴訟会社から得た収入が使用されていることは明らかである。

<8> 原告は、本件相続開始の直前である昭和六三年一月一二日に、本件株式(野村證券の株式を除く。)を、国際証券金山支店から現物で引き出した。そして、原告は、本件相続開始後の同年三月四日付けで内外証券名古屋支店において原告名義の保護預り口座を開設して、右株式を保護預りにした。その後、原告は、同年八月二二日までに、右株式を一部を除き売却し、その売却代金を原資として原告ら名義の株式等を購入した。

右の原告の一連の行動は、秀夫の有していた本件株式に係る相続税を逃れるためにされたものである。

<9> 原告は、本件相続に係る相続税の調査に際して、調査担当者に対し、上場株式を所有し売買したことはなく、右<8>の国際証券金山支店からの株式の引出しは知らないと供述し、また、平成元年六月二一日付けで被告に提出した所得税法二三二条所定の「昭和六三年分の財産及び債務の明細書」においても、本件株式を原告の財産として記載していない。

本件株式が原告の固有の財産であれば、調査に際してその旨述べ、「財産及び債務の明細書」にも、その旨記載すれば足りるにもかかわらず、原告は、そのようにしていない。

(3) 本件株式のうちアイカ工業の株式については、本件相続の開始日において、配当金交付の基準日が経過しているにもかかわらず、配当金交付の効力が発生していなかったから、配当期待権が存した(別表三の「その他の財産」中の「配当期待権」欄記載の配当期待権、以下、「本件配当期待権」という。)。アイカ工業の株式が秀夫に帰属する以上、本件配当期待権も相続財産である。

(四) 本件株式及び本件配当期待権の評価額は、別表四記載のとおりである。

(五) 原告は、別表三の「現金、預貯金」欄記載の東海銀行東支店の普通預金、中京銀行代官町支店の普通預金、同支店の定期預金及び瀬戸信用金庫車道支店の定期積金並びに本件株式及び本件配当期待権が秀夫に帰属する財産であることを十分に認識していたにもかかわらず、これらを相続財産から除外して申告しなかった。その上、原告は、右(二)<8>のとおり財産の隠ぺいを図り、また、右(二)<9>のとおり虚偽の答弁をしている。このような原告の行為は、国税通則法六八条一項に該当するものである。

2  原告

(一) 本件株式及び本件配当期待権は、すべて原告固有の財産であり、相続財産ではない。

(二) 本件株式が原告固有の財産であることは、次の各事実から明らかである。

<1> 本株式の名義人は、被告が右1(二)<1>で主張するとおりであるが、これらの各名義の株式のうち原告名義以外のものは、原告が、他の者の名義を借用して取得したものである。

<2> 原告は、自ら証券会社へ赴き、銘柄を指定し、指値をして、本件株式を購入した。

<3> 本件住所が秀夫の住所であったことは認めるが、原告は、昭和五〇年九月まで、本件住所において秀夫と同居していたから、本件住所は原告の住所でもあった。その後、原告は転居したが、訴外会社は本件住所にあったから、原告は、毎日本件住所に通勤していた。したがって、特に住所変更の手続をとらなかった。

<4> 秀夫は、訴外会社の代表者ではあったが、実際は、原告が訴外会社の代表者としての仕事をしていた。また、原告が秀夫名義の印鑑を所持し、秀夫名義の預金口座を管理していた。

本件株式に係る株主票や保護預り口座の届出印鑑が秀夫名義のものであったとしても、それは、原告が持っていた秀夫名義の印鑑を使用したものであり、また、配当金等が秀夫名義の預金口座に入金されたとしても、その預金口座は、原告が管理していた。

<5> 本件株式の大部分は、原告の給与収入で購入したものである。

<6> 原告が昭和六三年一月一二日に本件株式(野村證券の株式を除く。)を、国際証券金山支店から現物で引き出したこと、原告が同年三月四日付けで内外証券名古屋支店において原告名義の保護預り口座を開設して右株式を保護預りにしたこと及び原告が同年八月二二日までに右株式を一部除き売却し、その売却代金を原資として原告ら名義の株式等を購入したことは、認める。このように本件株式を処分したのは、売却の時期が来たためであり、相続税を免れるためではない。

(三) アイカ工業の株式は、原告固有の財産であるから、本件配当期待権は、相続財産ではない。

(四) 原告は、相続財産の隠ぺい等を行ったことはないから、重加算税を課される理由はない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四当裁判所の判断

一  事実関係

本件株式の名義人は被告が右第二の二1(二)<1>で主張するとおりであること、本件住所が秀夫の住所であったこと、原告が昭和六三年一月一二日に本件株式(野村證券の株式を除く。)を国際証券金山支店から現物で引き出したこと、原告が同年三月四日付けで内外証券名古屋支店において原告名義の保護預り口座を開設して右株式を保護預りにしたこと及び原告が同年八月二二日までに右株式を一部を除き売却し、その売却代金を原資として原告ら名義の株式等を購入したことは、当事者間に争いがない。これらの争いがない事実に、証拠(甲七、乙一の一ないし五、乙二の一ないし三、乙三ないし六の各一、二、乙七の一ないし四、乙八の一、二、乙九ないし三七、乙四一の一ないし五、乙四二の一、二、乙四三の一ないし一〇、乙四四、四五、乙四七の一ないし五、乙四八、四九、乙五一の一、二、乙五二ないし五四、証人伊佐間豊、原告本人)と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  秀夫は、戦前から、個人でダンボール箱の製造業を営んでいた。

2  原告は、高等学校に在学していた当時から右ダンボール箱製造業を手伝い、昭和二〇年代の中頃に高等学校を卒業した後は、右ダンボール箱製造業に従事するようになった。

3  昭和三四年四月に、秀夫、原告らが発起人となって、訴外会社が設立された。設立時に引き受けた株式数は、秀夫が七〇〇株、原告が三〇〇株であった。また設立時における訴外会社の取締役は、秀夫、原告、すヾの三名で、秀夫が代表取締役に就任した。設立時における役員報酬の月額は、秀夫が五万円、原告が二万五〇〇〇円であった。

訴外会社は、右個人事業を引き継ぎ、ダンボール箱製造の事業を行った。

4  秀夫は、右設立時から昭和五六年五月三一日まで、訴外会社の代表取締役であった。また、原告は、訴外会社の取締役であったところ、昭和五二年五月三一日に、訴外会社の代表取締役に就任した。

5  原告は、秀夫とともに本件住所に住んでいたが、昭和五〇年九月に名古屋市東区徳川一丁目八番四一号に転居した。秀夫は、死亡するまで本件住所に住んでいた。

6  本件株式は、別表四の「名義人」欄記載の各名義で取得され、長期間にわたり資産として保有されていた。

本件株式の名義人のうち、近藤精一は秀夫の兄で本件株式取得当時すでに死亡していた。近藤義一は秀夫の従兄弟、近藤光司は訴外会社の従業員であった。また、近藤秀実、近藤正紀、近藤徳久は、いずれも原告の子であって、同人ら名義の本件株式取得当時は未成年者であった。西村登及び西村彰については、実在するかどうか不明である。

右のとおり多くの者の名義が用いられているのは、株式の名義を複数の者に分散させていたためであって、これらの名義どおりに株式が取得されたわけではない。

7  本件株式は、右個人事業及び訴外会社の事業によって得られた資金を原資として、それを将来のために蓄える趣旨で購入されたものであり、本件株式の大部分は、秀夫が訴外会社の代表取締役であった時期に購入された。

8(一)  本件株式のうちトーエネック及び野村證券の原告名義の株式並びに大倉商事の西村登及び西村彰名義の株式以外の株式に係る株主票の届出印鑑には、秀夫名義の印鑑(A印鑑)が使用されていた。

本件株式のうち野村證券のものを除く株式は、国際証券金山支店において秀夫名義で保護預りにされていたが、保護預り口座の届出印鑑もA印鑑であった。

A印鑑は、印鑑登録を受けた秀夫の実印であった。また、A印鑑は、別表三の「現金 預貯金」欄記載の名古屋代官郵便局の郵便貯金、東海銀行東支店の普通預金、中京銀行代官町支店の普通預金及び同支店の定期預金の秀夫名義の各口座の届出印鑑と同一であった。

(二)  本件株式のうちトーエネック及び野村證券の原告名義の株式に係る株主票の届出印鑑(B印鑑)は、秀夫名義のものであった。

(三)  本件株式のうち大倉商事の西村登及び西村彰名義の株式に係る株主票の届出印鑑には、西村名義の印鑑が使用されていた。

9  本件株式に係る株主票の名義人の住所は、すべて本件住所であった。

10  本件株式に係る配当金の支払通知書は、すべて本件株式に送付され、本件株式に係る配当金は、右東海銀行東支店の秀夫名義の普通預金口座に入金された。

11  昭和五八年及び昭和六一年に、秀夫名義及び原告名義で野村證券の単位未満株の買付注文が出されたが、その際、買付注文の代金に残余金が生じた場合の振込先として、右中京銀行代官町支店の秀夫名義の普通預金口座又は東海銀行東支店の秀夫名義の普通預金口座が指定された。また、発行された野村證券の単位未満株券は、本件住所へ送付された。

12  秀夫は、昭和六二年春に病気のため入院し、退院したが、同年一二月に再び病気のため入院した。このときは、血圧がかなり低下し、危険な状態になったこともあったが、昭和六三年の正月前には退院した。しかし、昭和六三年一月末ころ再び入院し、同年二月三日に心筋梗塞で死亡した。

13  原告は、昭和六三年一月一二日に、国際証券金山支店に保護預りにしていた本件株式(野村證券の株式を除く。)を、同支店から現物で引き出した。そして、原告は、同年三月四日付けで内外証券名古屋支店において原告名義の保護預り口座を開設して、本件株式(右引き出した株式及び野村證券の株式)を保護預りにした。その後、原告は、同年八月二二日までに、本件株式を一部を除いて売却し、その売却代金を原資として、原告、近藤秀子(原告の妻)、近藤秀実の各名義で株式等を購入した。

14  原告は、平成元年一二月一日、本件相続に係る相続税の調査に際して、名古屋東税務署の職員から、質問を受けたが、その際、原告は、原告が上場株式を所有し売買したことは全くない、右の国際証券金山支店からの株式の引出しは知らない旨の供述をした。また、原告は、平成元年六月二一日付けで被告に提出した所得税法二三二条所定の「昭和六三年分の財産及び債務の明細書」に、本件株式を売却して買い受けた株式等を、原告の財産として記載していない。

二  右一認定の事実に基づき、本件株式及び本件配当期待権の帰属等について判断する。

1  右一7認定のとおり、本件株式は、秀夫の個人事業及び訴外会社の事業によって得られた資金を原資として、それを将来のために蓄える趣旨で購入されたものであることが認められる。

原告は、本件株式の大部分は、原告の給与収入で購入したものである旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

2  そして、右一7認定のとおり、本件株式の大部分は、秀夫が訴外会社の代表取締役であった時期に購入されたものである。

3  また、右一8認定のとおり、本件株式のうち大倉商事の西村登及び西村彰名義の株式以外の株式に係る株主票の届出印鑑には、秀夫名義の印鑑(A印鑑及びB印鑑)が使用されていた。そして、右一8認定のとおり、A印鑑は、印鑑登録を受けた秀夫の実印である上、当該口座の預金又は貯金が相続財産であることは当事者間に争いがない名古屋代官郵便局の郵便貯金、東海銀行東支店の普通預金、中京銀行代官町支店の普通預金及び同支店の定期預金の秀夫名義の各口座の届出印鑑と同一であった。なお、証拠(乙四六)と弁論の全趣旨によると、東海銀行東支店には、原告名義の預金口座があり、その届出印鑑はA印鑑及びB印鑑とは別の印鑑であったことが認められる。

4  さらに、右一9認定のとおり、本件株式に係る株主票の名義人の住所は、すべて秀夫の住所であった本件住所であり、弁論の全趣旨によると、右一5認定のとおり原告が本件住所から転居した後も、住所変更の手続はなされなかったものと認められる。

5  その上、右一10及び11認定のとおり、本件株式に係る通知書等が本件住所に送付された事実や右東海銀行東支店の秀夫名義の普通預金口座への配当金の入金等の事実が認められる。

6  右一13認定のとおり、原告は、本件相続の直前に国際証券金山支店に保護預りにしていた本件株式を現物で引き出し、本件相続後に売却して、別の株式を購入するなどしたことが認められるが、右一12認定のとおり原告が国際証券金山支店から本件株式を引き出した時期までに秀夫は病気で危険な状態になるなどしていたこと、右一14認定のとおり本件相続に係る相続税の調査に際して原告は国際証券金山支店からの本件株式の引出しは知らない旨の虚偽の供述をしたこと、相続税を免れること以外に右の時期に保護預りにしていた株式を引き出して、それを売却しなければならないような事情があったとは認められないことを総合すると、原告の右一13認定の一連の行為は、本件株式に係る相続税を免れるためにされたものと認められる。

7  以上述べてきたところに右一認定の事実を総合すると、本件株式は、秀夫の個人事業及び訴外会社の事業によって得られた資金を蓄える趣旨で購入されたものであり、株式の名義人は複数の個人に分散されていたものの、印鑑、住所、銀行口座等は、訴外会社の代表者であった秀夫のものが用いられていたものと認められ、原告が本件株式に係る相続税を免れるための行動をとっていたことをも併せ考えると、本件株式は秀夫に帰属していたものと認めるのが相当である。

8  もっとも、原告、訴外会社の代表者は秀夫であったが、設立当初から実際は原告が訴外会社の代表者としての仕事をしていた、訴外会社の設立当初から、原告が秀夫名義の印鑑を所持し、秀夫名義の預金口座を管理していた、原告は、自ら証券会社へ赴き、銘柄を指定し、指値をして、本件株式を購入した旨主張し、本人尋問において、それに沿う供述をする。しかし、右一3認定のとおり訴外会社の事業は秀夫の個人事業を引き継いだものであったこと、証拠(乙三六)と弁論の全趣旨によると、訴外会社設立当時、原告は二〇歳代半ばであったのに対し、秀夫は五〇歳代半ばであったものと認められること、本件全証拠によるも、訴外会社設立当時秀夫が特に健康を害していたというような事情は認められないこと及び右一3認定の訴外会社設立当時の株式の数や役員報酬の額を総合すると、訴外会社の設立当初から、原告が訴外会社の代表者としての仕事をし、原告が秀夫名義の印鑑を所持し、秀夫名義の預金口座を管理していた旨の右供述を直ちに信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。そして、訴外会社設立後、ある時期から原告が実質的に訴外会社の代表者としての仕事をするようになり、原告が秀夫名義の印鑑を所持し、秀夫名義の預金口座を管理し、株式を購入することがあったとしても、右のとおりもともと原告が訴外会社の実質上の代表者であったとは認められないことや右1ないし7で述べたところからすると、原告は、秀夫に代わって、秀夫のために、株式を購入したものと認められる(なお、原告も、本人尋問において、「私はあくまでも秀夫が代表であるという姿勢でやっていた」旨の供述をしている。)。

9  したがって、本件株式は、本件相続に係る相続財産というべきである。

10  弁論の全趣旨によると、本件株式のうちアイカ工業の株式については、本件相続の開始日において、配当金交付の基準日が経過しているにもかかわらず、配当金交付の効力が発生していなかったから、配当期待権(本件配当期待権)が存したものと認められるところ、アイカ工業の株式は秀夫に帰属するものであるから、本件配当期待権も相続財産に含まれるものというべきである。

11  証拠(乙三八、三九、乙四〇の一ないし三)と弁論の全趣旨によると、本件株式及び本件配当期待権の評価額は、別表四記載のとおりであることが認められる。

三  更正処分の適法性について

1  右二で述べたところに前記第二の一(争いのない事実)3の事実と弁論の全趣旨を総合すると、本件相続に係る相続財産等の財産別価額は別表三の被告主張額欄記載のとおりであり、それに基づいて相続税額等を計算すると、その結果は別表二の被告主張額欄記載のとおりであることが認められる。

2  被告が平成三年七月九日付けで原告の相続税についてした更正(異議決定により一部取り消された後のもの)及び被告が平成三年七月九日付けで亡近藤すヾの相続税についてした更正(異議決定により一部取り消された後のもの)における相続税額は、右1認定の相続税額と一致するから、これらの各処分は、適法なものである。

四  重加算税及び過少申告加算税賦課決定の適法性について

1(一)  前記第二の一(争いのない事実)2及び3(二)の各事実に右一認定の事実と弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件株式について右一13認定のとおり財産の隠ぺいを行ったほか、本件別表三の「現金、預貯金」欄記載の東海銀行東支店の普通預金、中京銀行代官町支店の普通預金、同支店の定期預金及び瀬戸信用金庫車道支店の定期積金並びに本件株式及び本件配当期待権が秀夫に帰属する財産であることを十分に認識していたにもかかわらず、これらを相続財産から除外して申告しなかったものと認められる。このような原告の行為は、国税通則法六八条一項に該当し、重加算税を課すべき要件が存するものと認められる。

(二)  被告が平成三年七月九日付けで原告の相続税についてした更正(異議決定により一部取り消された後のもの)により原告が新たに納付すべきこととなった税額二二九二万円(一万円未満切捨て)が重加算税の計算の基礎となる税額となるから、これに一〇〇分の三五を乗じると、重加算税の額は、八〇二万二〇〇〇円となる。

(三)  したがって、被告が平成三年七月九日付けで原告に対してした重加算税賦課決定(異議決定により一部取り消された後のもの)は、適法である。

2(一)  亡近藤すヾについては、過少申告であるところ、過少申告加算税の額は、被告が平成三年七月九日付けで亡近藤すヾの相続税についてした更正(異議決定により一部取り消された後のもの)により、亡近藤すヾが新たに納付すべきこととなった税額二〇八二万円(一万円未満切捨て)に一〇〇分の一〇を乗じて得た金額(二〇八万二〇〇〇円)と、右税額から五〇万円を控除した二〇三二万円に一〇〇分の五を乗じて得た金額(一〇一万六〇〇〇円)の合計三〇九万八〇〇〇円となる。

(二)  したがって、被告が平成三年七月九日付けで亡近藤すヾに対してした過少申告加算税賦課決定(異議決定により一部取り消された後のもの)は、適法である。

第五総括

以上の次第で、本件請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 田澤剛)

別表一

本件課税処分等の経緯

<省略>

別表二

相続税額等の計算明細表

<省略>

別表三

相続財産等の財産別価額表

<省略>

別表四

有価証券等の明細表

<省略>

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